日本のファッション・繊維産業を支えてきた老舗・大手専門商社の3社(株式会社ヤギ、株式会社サンウェル、瀧定株式会社)が手を取り合い、それぞれのテキスタイルECサイト間で在庫情報をリアルタイムに相互連携する画期的なプロジェクトをスタートさせました。
個社単体でのデジタル化(DX)の壁を突き破り、競合の垣根を超えた「共創戦略」は、これからの生地流通にどんな新しい利便性とビジネス機会をもたらすのか。記者発表会と質疑応答の要点を凝縮してお届けします。
・八木隆夫 氏(株式会社ヤギ 代表取締役 社長執行役員)
発言要旨: 「各社単独でやっていても、市場規模を大きく伸ばすには限界がある。得意分野がバッティングしない3社の強みを掛け合わせ、日本のテキスタイルが持つポテンシャルを世界へと開放していきます」
・今泉 治朗 氏(株式会社サンウェル 代表取締役社長)
発言要旨: 「3社が集う集客力とネットワークで、お客様に最高の利便性を届けたい。小口取引の効率化から巨大な原反(ロール状の巨大な生地束)取引のデジタル化へ、さらにはAIや3D技術も組み込んだワンストップの未来を目指します」
・瀧 健太郎 氏(瀧定株式会社 代表取締役社長)
発言要旨: 「企画開発型商社として顧客接点を多角化することは急務。このオープンな連携を通じて、刻々と変化するお客様のご要望にしっかり、スピーディに応えていきたい」
アパレル・繊維業界にもDXの波が急速に押し寄せる中、「各社が個別にECサイトを立ち上げた結果、ユーザーにとっては情報が分散し、欲しい生地が探しにくい」という課題がありました。
今回立ち上がったのは、ヤギの「Fably(ファブリー)」、サンウェルの「SUNWELL NET(サンウェルネット)」、瀧定の「Takisada Online Studio(タキサダオンラインスタジオ)」の3サイト。本取り組みの最大の特徴は、どこか1つのプラットフォームへ集約・統合するのではなく、「それぞれの強みを活かしたまま、データでシームレスに繋がる」という柔軟なアプローチをとった点にあります。
この連携が実現した背景には、各社の強みが見事に機能分担されているという理想的な相補関係がありました。3社はいずれも幅広いテキスタイルを取り扱い、競合する領域も持ちながら、それぞれの商品構成、企画開発力、顧客基盤などに特徴があります。今回の連携では、各社の強みを活かしながら品揃えを相互に補完することで、お客様の素材選択の幅を広げます。
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ECサイト名 |
取扱い種類 |
特徴・進捗状況 |
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Fably(ヤギ) |
約1,500品番 |
プラットフォーム型EC。会員数4,000人超。世界20カ国以上からアクセスを集める。 |
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Takisada Online Studio(瀧定) |
2,000品番以上 |
即納可能な現物※1を厳選公開中。海外向け『Ja-fabric(ジャ・ファブリック)』も並行展開。 |
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SUNWELL NET(サンウェル) |
約1,500品番 |
小口受注の約8割がネット経由。サイト刷新後は毎月約200名ペースで新規会員が増加中。 |
サービス開始時点(8/19・10時~)で相互連携するのは、各社が厳選した「即納可能な現物※1在庫30品番(計90品番)」からのスタートとなります。これは、データ連携が実務上でスムーズに動くかをしっかり検証し、お客様に「在庫がない」「納期が不明」といった混乱を生ませないための安全策です。
記者会見第2部の実務責任者セッションでは次のようなQ&Aが飛び交いました。
● Q. なぜ1つの巨大なECサイトにまとめないのか?
回答:「各社で倉庫も配送網も決済システムも異なるため、物理的に1つに統合するのは現実的ではありません。それぞれのサイトを強化しつつ、データ連携で繋がる形が最も効率的かつスピーディにお客様の利便性を最大化できます」
● Q. 次のステップ(第2弾・第3弾)で狙う機能は?
回答:「現在は即納できる『現物※1』のみですが、実際の取引で需要が大きい『先物※1(追加生産品)の受注連携・キープ(在庫仮押さえ)機能の共有』を協議中です。さらに、欧州で注目されるDPP※2(デジタルプロダクトパスポート)やサステナビリティデータの共通化など、中長期的な機能拡張も視野に入れています」
3社が描くビジョンの先にあるのは、国内市場の効率化にとどまりません。最大の目標は「日本の高品質なテキスタイルを、世界中のクリエイターへ届けること」です。
ヤギの「Fably」はすでに多通貨決済に対応し20カ国以上と取引実績を持っています。サンウェルも英語版専用サイトを近く稼働予定で、瀧定も海外向け「Ja-fabric」を展開しています。これら3社の海外チャネルと相互の在庫データが組み合わさることで、世界中のデザイナーが日本の生地をワンストップで購入できるグローバルインフラが完成します。
さらにサンウェルの今泉社長が「未来の夢」として語ったのは、3D技術やAIとの融合。 EC上で生地を選ぶだけでなく、その場で3Dアパレルシミュレーションを行い、製品化のオーダーまでをデジタル上で完結させるー。そんな次世代のクリエイティブ・ワークフローが、この3社連携から始まろうとしています。
本取り組みは、アパレル業界の長年の課題である「小口対応(サンプル等)の手間」や「情報の分散」に対し、競合同士がタッグを組んでデジタルで解決を図る伝統産業のDX挑戦であり、将来的に副資材や他テキスタイル企業の参入も受け入れるオープンな共創プラットフォームとして業界標準(デファクトスタンダード)化に向けた新しい共創アプローチです。
また、新たな巨大システムをゼロから共同開発する膨大な設備投資を避け、API等のデータ連携によって既存のシステム資産を有効活用するスモールスタート戦略は、資本効率(ROIC/ROE)の観点からも極めて合理的なアプローチです。まずは30品番ずつのテストランから安全に稼働させ、今後は小口取引から大口の「原反(量産用生地)取引」や「先物受注」へデジタル化を波及させることで、プラットフォーム上の流通金額の飛躍的な伸長を目指してまいります。
さらに、多通貨決済や英語版サイトとの連携を通じたグローバル展開(20カ国以上)や、素材探しの負担軽減によるクリエイターの生産性向上を通じて、日本の豊かなテキスタイル文化を世界へ広げる強力な推進力を生み出していきます。
私たちヤギは、単に自社のECサイト「Fably」の利便性を高めることだけを目指しているわけではありません。 伝統ある日本のテキスタイル産業が持つ圧倒的なクオリティとものづくりのポテンシャルを、デジタルとデータの力で解き放ち、世界中のデザイナーやクリエイターが『最高の生地』にストレスなく出会えるインフラをつくること——それこそが、今回の3社連携、そして「日本発・テキスタイルプラットフォーム構想」の真の狙いです。
競合という垣根を超え、お互いの強みをリスペクトし合いながら共に歩み始めたこの挑戦は、まだ始まったばかりの「ファーストステップ」に過ぎません。持続可能な成長と企業価値の向上を追求しながら、よりオープンで豊かな共創エコシステムへと育てていきたいと考えています。
生地探しのストレスをなくし、クリエイターがより創造的なプロセスに没頭できる未来へ。そして、日本の繊維文化が世界を魅了し続ける未来へ。
「YAGI CREATIVE HUB」では、今後もこの3社連携の進捗や、現場のリアルな工夫、そしてテキスタイル流通の未来を変える新たな挑戦など関連情報をこれからも発信してまいります。ぜひご期待ください。
【用語補足】
※1)現物(げんぶつ)と先物(さきもの):
現物:すぐに手配できる店頭・倉庫在庫。 先物:注文を受けてから生産する受注生産品
※2)DPP(デジタルプロダクトパスポート):製品の原材料や製造履歴、環境負荷などをデジタル記録・開示する欧州の仕組み